夏の夕暮れ、路地裏に迷い込んで出会う歌の数々
てぬぐいの2010年作ファースト・アルバム
2016年にシングル「
わらえないうそ わらっちゃうほんとう」をスウィート・ドリームス・プレスより発表した「てぬぐい」の6年前、西荻窪の雑貨店
FALLからリリースされたファースト・アルバム。
ゲスト奏者に現在もサポート・メンバーとして共に歩を進めるスティールパン奏者の萬年将人、
F.L.Y.の山我静(クラリネット)と
SACHI-A(ドラムス)、また、マスタリングに庄司広光(soundworm、Tsuki No Wa、attc、
pagtas他)を迎えて制作された「てぬぐい」横丁の11曲。
ジャケットに描かれた大きな鳥の目に吸い込まれると、そこに広がるのはテクニカラーの古い町並み。しまい込んでいた記憶の欠片に息を吹きかけていくその仕草、その指さばきや息遣いのひとつひとつをご堪能ください。
居心地がよく、愛らしく、謙虚で、親しみやすい、それでいて聴く者ひとりひとりの大切な場所にしっかりと種を落とす芯のあるスモール・ミュージックがここにあります。
路地裏観察の詩人、抜きんでた完成度、無意識に口ずさんでしまうメロディー、何度聴いても発見できる極上のジャパニーズ・ポップス…なんて降りてくるどんな賞賛も安っぽく思えてしまう。このすごい作品の前に当てはまる言葉がない。/山田民族(F.L.Y.)
子供の頃の夏休み。祖父母の住む浅草の家に妹と遊びに行った。昭和初期に造られた長屋の軒先にはもう使われていない井戸があって、盆栽や植木が所せましと並べてあった。打ち水をした道を浴衣を着た子供たちが歩いてゆく。たまに風鈴が鳴る以外は東芝の扇風機が静かに音を立てるだけで、ちゃぶ台の置かれた畳に妹と座り「あれなーにお兄ちゃん?」「う、神棚っていうんじゃない」「あの兵隊さんのかっこした人は?」「あれはおじいちゃんのお父さんじゃないかな」なんてちょっと緊張していると祖母がかき氷を持って来てくれる。こんなにシロップって赤かったかなと思いながら食べていると「キーン」と頭を響かせる冷たさ。横で妹も同じ顔してこっちを見ている。箪笥の上に置かれたラジオからは「30歳をすぎたら♪」なんて歌が流れている。「おばあちゃんこの歌だれの歌?」「なんか「てぬぐい」っていう人たちみたいですよ」「ふーん」遠い昔の出来事なのにその日の出来事はなぜかよく覚えている。夏が来るたびに、鮮やかなシロップのかかったかき氷とともにあの歌を思い出す。/森純一(
シネルパ)
アーティスト:てぬぐい
タイトル:ki ki na shi
発売日:2010年8月14日
フォーマット:CD
パッケージ:変形E式紙ジャケット(ダブル)
アートワーク:ユカワアツコ
てぬぐい:ギター奏者としてシネルパにも参加する伊藤啄矢(ボーカル、ギター)とユカワアツコ(ボーカル、アコーディオン)のふたり組。2003年より活動を開始し、以来ふたりが住む西荻窪近辺・中央線沿線のカフェやライブハウスなどでオリジナル曲を演奏してきた。2009年よりゲスト演奏者としてスティールパン奏者、
mangnengこと萬年将人とステージを共にすることも多く、伊藤、ユカワともに萬年率いるmangneng planet bandのメンバーでもある。2010年夏にファースト・アルバム『ki ki nashi』をFALLよりリリース。ユカワアツコはイラストレーターとしても活動し、
トリルの名前で小鳥をモチーフにした雑貨の制作もしている。
Tracks:
1. 十姉妹
2. かごの外
3. いつもいつも
4. 朝
5. グライダー
6. 肩こり
7. 夏になるのは
8. 夏に生まれた子
9. アルテミス
10. 針葉樹
11. 美術館の休日
External Link:
てぬぐい official website